活動報告

新着記事

カテゴリー

キーワード検索

2015.05/05 問題解決(4)

企業の研究開発において問題を日々チェックできない管理職は失格である。科学では真理を追究するのが唯一の目的なのでおいそれとゴールは変化しない。しかし、企業の研究開発は技術を完成させて商品に搭載するまでがミッションである。例えば、研究開発を推進している途中で商品開発そのものが見送りになれば、それも終了するのが常である。そして途中まで投入した開発資源をどう処理するかを考えるのは、研究開発管理者の重要な仕事となる。

 

中間転写ベルトの開発では、当方の処遇は退職まで数年の身であったので、コンパウンドメーカーから協力が得られなくなった時点で責任をとり、開発失敗として処理した方がサラリーマンという立場では手軽な問題解決法であった。ここで開発に成功しても役員になれるわけではないので給料のみならず退職金も変わらないのである。人事部に早期退職者優遇制度を使った場合のシミュレーションをお願いしたところ、2年我慢して勤務すれば満期で退職したときと変わらない退職金になるとの情報を頂いていた。

 

さらに外部のコンパウンダーも一流だったので、PPSという材料は高級機種の中間転写ベルトに使えない、という結論を出しても皆が納得しただろう。しかし、前任者により設備投資がなされ充実した豊川のパイロットプラントや現場で働く人数を見て、必ず成功させなくてはいけないテーマであることを理解できた。給料も退職金も増えるわけではないが、ドラッカーの「働く」意味を思いだし、自己実現の目標を新たに設定しなおした。すなわち問題を会社の問題としてとらえただけでなく、責任ある技術者として生きる自分の問題に設定しなおして、必ず成功させるための意思決定をしたのである。

 

これは公私混同では無い。退職前でサラリーマンとして報われないことを承知しての無欲の企業への貢献である。負けには必然性があるが、勝ちはせいぜい予測できるだけというのは兵法に書かれた名言だが、このテーマが成功しても「不思議な勝ち」となるだけである。「不思議な勝ち」とは野村克也氏のマネだが、そもそも意思決定は、100%の保証が無い勝ちを予測し行うものである。その勝ちを予測することで目標が明確になり、戦略立案が可能となる。

 

意思決定されると見えてくる問題があるという話は先日書いた。それは、目標が明確になるからである。企業の研究開発では、限られた資源の中で成果を出さなければならない。すなわち企業の研究開発では、真理の追究をする前に、研究開発における制約を明確にしなければならない。それは経営者の仕事ではなく現場にいる技術者の責任である。研究開発の制約は技術者の意志決定により取り除かれる(注)。そしてその意志決定により真の問題が見えてくる。問題が明確になれば、あとはそれを解決するだけである。

 

(注)技術者にマネージメント能力を期待していない企業もあるが、少なくとも管理職群に処遇された技術者は、マネージメント能力を発揮しなければいけない。日本の企業において技術者の処遇はライン管理者よりも低く位置づけられたりするがこれは間違っている。給与をライン管理者よりも多く与えることでマネジメント能力は発揮される。管理職群以上では給与の意味は理解されているはずである。給与を上げずにフェローなどの特別な名称の処遇で対応している企業もあるが、スキルの高い技術者について、若手社員に技術を大切にしていることを経営方針として示すために本来は給与を高くするべきだろう。逆に担当部長とか担当課長というありきたりで中途半端な肩書きは技術者のモチベーションにマイナスとなる。権限も何も無い、と誤解してやる気がなくなる技術者もいるかもしれない。しかし、担当部長や担当課長でも現場における戦術展開の権限は「与えられなくても」存在するのである。ここで意志決定が重要になってくる。

カテゴリー : 未分類

pagetop

2014.10/11 諦めない技術開発(2)

 

企業の研究開発において、上手くいっていないテーマについて継続の判断を左右するのは、現場におけるそのテーマ担当者の考え方である。実際の実行責任は管理者が負っているが、管理者がテーマを継続すべきかどうか判断する場合に、テーマ担当者の考え方を重視するかどうかは、管理者が研究開発を理解しているかどうかに影響される。

 

例えば、STAP細胞の騒動では、学会会長が異例の研究中止宣言を出したにもかかわらず、理研所長は研究継続の判断を下したばかりでなく、小保方さんにも研究の機会を与えている。

 

もし小保方さんが誠実で真摯な研究者であれば、理研所長の判断が正しく必ずSTAP細胞はできるだろう。また、所長はじめ理研のメンバーも、性善説に従いそこにかけている。しかし、もし小保方さんが、20年以上前当方のFDを壊した犯人のように、誠実さのかけらもないような研究者だったなら、STAP細胞はできない。

 

学会会長が研究中止宣言を出した段階であれば、理研所長が研究中止を決断しその決断が仮に間違っていたとしても歴史は理研所長を許しただろう。しかし、理研所長は研究継続の決断を下した。

 

世間は理研のメンツのためにテーマを進めている、と見たかもしれないが、当方は、所長が研究開発と言うものを知り過ぎていたためにあのような判断をしたのだろうと思った。所長は小保方さんを信じたのである。そして、所長自らSTAP細胞の研究に夢を賭けたのである。

 

経営の視点では極めてリスクの高い選択であり、通常このような決断は下されない。しかし、りーダーが現場担当者と夢を共有化した時に常識とは異なる決断がなされ、イノベーションが起きる。ただし、それは現場担当者が誠実で真摯な人物の場合だけである。

 

 

カテゴリー : 未分類

pagetop

2014.07/29 技術者の企画提案力(3)

技術者は機能を創出するのが仕事であり、その遂行により洞察力や情報収集力、論理力、仮説力、仮説検証力だけでなく、想像力やイメージ具現化力が磨かれる。ここにプレゼン力が備われれば、立派なプロの企画マンになれる。

 

ゴム会社で6年間高純度SiCの事業開発を行いながら、半導体冶工具の企画や切削工具の企画、高性能電気粘性流体の企画などありとあらゆる企画を行うのに、短い経験ではあったが技術開発経験が役だった。

 

最初は必死で取り組み、企画が認められ、テーマとして予算がつくと一息ついた。しかし半年から1年で成果を求められたので、テーマがつぶされる前にそれを中断し、新テーマの企画提案により予算を獲得した。

 

買収した会社とのシナジー効果が大きい、とされていた電気粘性流体のプロジェクトで最大の問題となっていた耐久性の改良について相談されたときには、企画書をださずにいきなりソリューションを提示した。

 

そのまま実用化できる結果だったので、さらに面白い企画は無いか、と言われ、傾斜機能粉体、微粒子分散型微粒子、コンデンサー分散型微粒子という電気粘性流体を高性能化できる3種の微粒子企画を提出した。この時からFDが壊れ始めた。

 

転職してから当方のFDを使用できないようにいたずらした人の気持ちを理解できるようになったが、当時はリストラされるのではないかと会社の中で生きてゆくのに誰もが必死であった。少しでも良い企画を提案し、予算を得て高純度SiCの事業を成功に導く、ただそれだけを考えていた。電気粘性流体の仕事を当方が担当しようということなど考えてもいなかった。

 

企画提案の一番難しいところは、根回しである。特に既存事業や既存テーマに破壊的影響力のある企画を社内で提案するときには、まず既存事業や既存テーマを担当している部門や担当者とよくすりあわせを行わなければいけない。

 

カテゴリー : 未分類

pagetop

2014.04/23 燃料電池(1)

ハイブリッドカーの売れ行きが伸びている。またこの6月にはハイブリッドカーではないが、ダウンサイジングターボ(ブルーターボ)と銘打って、スバルから1000kmをドライブできるレボーグが登場する。いずれもガソリンの消費量を減らし、環境対応を謳った車だ。一方、未来の車として注目を集めている電気自動車の売れ行きが芳しくない。未だ電気充電スタンドが地方まで普及していないために長距離ドライブが難しいためだ。しかし、近距離ならば電気自動車は環境に優しいだけでなく、燃費も安い。

 

電気自動車の一番の問題は電池というエネルギー源である。電池容量を高めれば、航続距離も伸びるが、重量が重くなる問題がある。仮に電気充電スタンドが普及しても充電に時間がかかる問題がある。すなわちガソリンならばガソリンスタンドが混んでいなければ、ものの5分でガソリンタンクを満タンにでき、再びドライブに出発できる。しかし、電池は充電時間を短くしようとすると電池寿命まで短くなる。高速充電は電池を痛めるのだ。

 

この充電時間の問題解決のために注目を集めてきたのは、燃料電池車だ。昨年のモーターショーでは、トヨタ自動車が燃料電池車の新車を発表していた。発売時期は未定だが、コンセプトカーではなくすぐに販売できる車のようだった。

 

燃料電池は、水素を触媒燃焼させたときに発生する電子を電池に利用している。ゆえに燃料として水素やメタン、メタノールなどを利用可能だ。ゆえに、容量が低くなり機能しなくなったならばガソリンカーと同様にこれらの燃料を供給してやれば、また電池として機能するようになる。すなわち充電の代わりに燃料をガソリン自動車のように供給することで電気を発生する電池であり、自動車に適している。

 

この燃料電池の技術は、30年以上前から存在した。35年前の国研ムーンライト計画でもテーマとして取り上げられている。しかし、なぜ普及しないのか。問題は燃料電池の電極に白金を使用しているからだ。白金はクラーク数が小さい希少金属であり高価である。しかし触媒燃焼が可能な実用的金属触媒が未だ見つかっていない。(続く)

カテゴリー : 未分類

pagetop

2014.02/24 おからハンバーグ(2)

おからハンバーグの開発過程で最も難関だったのは、ハンバーグの形状を維持することだった。すなわちおからハンバーグは、壊れやすい。WEBに公開されているレシピの中にも作りにくいものが存在する。鶏団子ではホクホク感や柔らかさで長所なるが、ハンバーグの場合には作りにくさと味の点で、おからを使用するときの大きな欠点である。

 

この原因は8割をしめる水分にある。この水分を処理しなければ壊れやすいハンバーグとなる。水分を処理するためには、小麦粉を併用して小麦粉におからの水分を吸着させる方法がある。この方法でハンバーグを壊れにくくすることに成功した。しかし、おからの量の15%程度小麦粉を加える必要があり、肉の味が薄められてしまう欠点がこの方法にある。

 

乾燥おからが100円ショップで売られていたのでそれを使用してハンバーグを作ってみたところ、壊れにくくしっかりとしたハンバーグを作ることができた。水分を処理する方法として「炒める」プロセスのアイデアが浮かんだ。おからハンバーグの開発で大切なアイデアの一つである。詳しくは問い合わせていただきたいが、少しノウハウがある。

 

焦げないように牛脂を用いて炒めると壊れにくいおからハンバーグの原料として使いやすい。文章で書けば1行だが、意外と難しい工程である。乾燥おからを用いなくても、このおからで壊れにくくおいしいおからハンバーグができる。

 

牛脂でおからを炒めることにより、おからをそのまま使用したときよりも牛肉感の豊富なおからハンバーグができる。またおからに含まれる繊維素の周囲に牛脂が付着するので挽肉とこね合わせたときに分散しやすくなる。(続く)

 

カテゴリー : 未分類

pagetop

2014.01/21 高純度SiC(4)

SP値あるいはフローリー・ハギンズのχは、二種の高分子の混合状態を予測するときに用いられるが、混合しようとする系で反応を伴うときには、これらの理論は当てにならない。リアクティブブレンドでもこれらのパラメータは重要だ、と言われるが、重要視しすぎるとアイデアを否定するパラメーターとなる。これらのパラメーターを扱う時には少し経験が必要である。

 

液状のフェノール樹脂にSiOユニットを含む様々な化合物を分散しながら、フェノール樹脂が固まるまでの変化を観察した。同じような大きさのχなのに樹脂の中のドメインサイズが様々に変化する。それが目視で分かる程度の変化である。シリカのドメインサイズの大きいフェノール樹脂の中には空気中で燃え続ける組成も存在した。

 

ミクロンオーダーのシリカ粒子の分散ではフェノール樹脂の難燃性を改善できないことが分かっていたが、すべて空気中で自己消火性を示した。空気中で燃え続けるフェノール樹脂は、廃棄物処理の実験で初めての体験である。シリカの分散状態で難燃性が大きく変化する現象を観察して、これをSiC合成の前駆体に用いることとその反応機構を解析すると前駆体の品質管理を容易にできる、という2つのアイデアが同時に浮かんだ。

 

開発テーマが終了し、不要となった材料の処理を行いながら面白いアイデアが浮かんだので処分に手間をかけて良かった。また、フェノール樹脂とポリエチルシリケートの混合は、うまくゆかなかった経験があり諦めていたが、放置しても5時間程度は相分離しない液体が得られたり、透明のまま固化した組み合わせが得られたり、予想以上の実験成果がでた。

 

再現性の問題や、材料の同定など行っていないので研究発表できるレベルの成果ではないが、フェノール樹脂と珪素成分を含む材料との混合について概略の傾向を把握する事ができた。しかし、概略の傾向であって、実験結果を統一的に説明できる成果では無い複雑な点が多い。おそらくその目的のために実験計画を組み実験を行っても見落とす可能性が高い。

 

この廃棄物処理の実験の半年後、同様の実験を行うことになるのだが、この日の実験の再現性の無さに悩まされることになる。すなわち同一条件でフェノール樹脂とポリエチルシリケートを混合しても相分離し、シリカが析出したのだ。

カテゴリー : 未分類 連載 電気/電子材料

pagetop

2013.12/27 ニコンDfの技術

フジフィルムのデジカメの成功で2年ほど前からクラシック感覚のデジカメが増えてきた。そして今年ニコンDfという画期的デジカメが発売された。どこが画期的かというと、画素数とか感度とかのスペックを宣伝しないカメラである。見て触って買ってください、といわんばかりのカメラ好きを狙った商品だ。

 

さっそく触ってみた。軽い!といってもペンタックス(リコー)の一眼レフカメラよりは重く感じた。実際にはペンタックスK3よりもわずかに軽いのだが、ペンタックスの製品はレンズも軽く作られているのにニコンのレンズは重い。ただ見た目の大きさから推定される重量よりも軽い。特にレンズセットで発売された組み合わせは、フィルムカメラを触っているような錯覚になる。ダイヤルの感触がまたよい。単なるぎざぎざダイヤルではなく昔懐かしい触り心地である。シャッターボタン始めボタン類の触り心地も抜群である。今バックオーダーを抱えているヒット商品だそうだ。

 

雑誌「アサヒカメラ12月号」に掲載された開発者インタビューを読み開発本部長山本氏の発言にしびれた。「構想段階ではしっかりと手を使って書き、イメージを膨らませるという教育をしている」と語っている。今時は3次元CADで図面を描けば、立体物の構想をPC上ででき、そのまま図面に落とせる便利な時代である。それでも構想段階では手を使うように教育をしているとのこと。

 

理由はCADで良いデザインができても実際に組み立ててみるとダイヤルの間隔が極端に狭かったりするそうだ。それで構想段階では手書きで、実際の自分のイメージを平面で確認しながら構想を具体化できるように教育をしている、という。これこそ心眼を大切にする技術者教育である。E.S.ファーガソンも同じような事を「技術者の心眼」に書いていた。

 

ニコンDfを1時間ほど店頭で触れてみたが、これだけ手になじむデジカメは初めてである。学生時代からペンタックスの手触り感が好きで、カメラはペンタックスを使い続けてきたが、このカメラには技術者の気合いを感じた。ただ、今売れに売れているので30万円近くする。センサー類はD4、その他はD610の部品の流用らしくD4よりは値段は安いが、外観にそれなりのお金がかかったカメラなのだろう。

 

高画素のデジカメD800よりも高い。D800と比較するのは無粋なことなのだろう。Dfは比較する対象が無い、それを欲しい人が買う商品である。そしてライカよりもお買い得である。カメラに興味が無い人もお金が余っていたらファッションアイテムとして買っても良いカメラである。価格もスペックとニコンカメラの製品ラインから考えるとビミョーに高い「持ちたくなる価値」を細部まで技術で表現した商品である。

 

 

カテゴリー : 未分類 電気/電子材料

pagetop

2013.04/21 多変量解析(1)

大学院に進学した頃8bitのマイクロコンピューターが話題になり、シャープからMZ80Kという組み立てキットが登場した。社会人になって車を買う前にこのMZ80Kを手に入れたが、BASICとアセンブラーがついていただけ。単純な計算はアセンブラーでコードを書けばよく走る。アセンブラーではプログラミングが面倒な作業になるので長いコードを書かないからバグも見つけやすい。

 

しかし、BASICはすぐにスパゲッティーよりも長いプログラムになる。走りも良くないが、バグるとリセットする以外に対応方法が無い。しかし、多変量解析などのプログラムではアセンブラーでコーディングするには大変で、BASICは重宝した。ただメモリー空間の狭さには閉口した。F-DOSが発売されたので、本体よりも高いフロッピーディスクドライブを購入した。今ではゲームで有名なハドソンからDISK-BASICが発売されたので飛びついた。10変数の実験データまでならFDOSを使い、多変量解析が自由にできるようになった。

 

フロッピーをアクセスしながらプログラムは走るのでちょっとした計算でも30分以上かかる。プリンターが無かったので計算結果は、表示されたデータを紙に手書きで写す。グラフも手書きである。画面に映し出された概略の分布を参考に、軸のスケールを大きくとり大雑把なグラフを手書きで書く。それでも一次相関だけを見ているより開発のスピードは上がり、アイデアも出る。主成分分析では予期せぬ分類を考察することになり、単相関では出てこなかったアイデアが出てくる。50万円近く私費を投入し、会社の仕事を独身寮に持ち帰り夜遅くまで楽しんでいた。今で言う”オタクの世界”だったのだろう。

 

多変量解析については、新入社員の開発実習でIBM3033という大型コンピューターのパッケージプログラムを使ったときに興味を持った。数千万円のコンピューターでしかできない計算を20万円のコンピューターでできるのか、と配属先の上司に言われ会社でMZ80Kを購入することをあきらめた。そこで自分で購入しチャレンジした。初めてプログラムが動いたときにはものすごく興奮したことを覚えている。

 

当時、機器分析技術が進歩していて、ゴムの分析データは1週間程度で分析グループの研究員が出してくれた。力学物性の試験結果と分析データを組み合わせて、単相関でグラフをいっぱい作成し、考察を進めるのが当時の仕事の進め方だが、これを改善したかった。せっかく分析グループの研究員が迅速に出してくれたデータである。仕事のスピードだけでなく、データを隅から隅まで利用したかった。大型コンピュータは専門家以外は自由に使えない環境で、さらにMZ80Kは上司の理解が得られなかった状況だったので、多変量解析を仕事に使うならば自分でコンピューターを購入する以外に道が無かった。

 

しかし、自分で多変量解析のプログラムを作る機会は、勉強不足の分野を補強する機会でもあった。学生時代あまり読んでいなかった線形代数の教科書はとたんに赤線だらけになった。当時の数ヶ月分の給料の出費は痛かったが勉強をする動機づけにはなった。お金も無くなり遊ぶこともできず、休日は独身寮でMZ80Kを動かし過ごす。仕事と私生活の区別が無い、サラリーマンとして落第生だったが、ストレスは無かった。毎週新しい発見がある仕事が楽しかったのである。

カテゴリー : 未分類

pagetop

2013.02/10 弊社の問題解決法について<24>

 それでは「考える技術」として日常の問題から科学の問題まで使用可能な新しい問題解決法を説明します。本書における問題を考えるという作業の意味は、「現実」が「あるべき姿」に改善されてゆく道筋を見いだすことと、その道筋を用いて「あるべき姿」に至る思考実験を行い問題解決のアイデアを検証し練り上げる作業までです。

 

 また、問題を解決するとは、「あるべき姿」を実現するために行動をおこし、成功することです。問題を考えるのも問題を解決するにも意志の力が必要です。すなわち、問題を考えるとは、すでにその段階から問題解決のステップがスタートしているのです。本書では、問題を考える時に必要となる発想力を引き出すための工夫を独自のK0チャートとK1チャートというツールで実現しています。

 

しかし、実際の問題解決では、ここで説明しているステップを段階的にすべて行う必要は無く、問題の規模に応じて途中のプロセスを省略することができます。ここで説明する各プロセスの良いところだけを取り出して、我流の「考える技術」を創りだすのもいいと思います。

 

ところで、すでに説明しましたように、問題解決の道筋は、問題の構造に影響を受けます。

 

問題の構造が単純で、課題が一つのときには、その課題が解決されれば、「現実」と「あるべき姿」の乖離は無くなります。しかし、通常の問題は複数の課題で構成されていたり、課題がさらに細かい課題で構成されていたりと問題の認識の仕方で変化します。また、課題を問題に転化できますので、問題が複数の問題で構成されている構造として認識することもできます。

 

問題を分析的思考で解決しようとした場合に、問題の構造の複雑さや課題が問題に転化する性質は分析結果に大きく影響するので大変困りますが、エージェント指向にも似た問題解決法では、問題の構造を自由に変化させて問題解決を進めますので、問題解決途中に「問題」に内在するこのような性質から影響をうけることはありません。

 

問題の構造を考えるにあたり、ここでは、問題が課題だけで構成された構造を持っていると仮定して系統図を作成してゆきます。しかし、この段階で通常行われるような、問題の構造の正確な全体像を表す系統図(ロジックツリーと呼ばれる)を作るわけではありません。叩き台程度でかまいませんから知識ベースを活用して、気楽に作ります。

 

これまでの問題解決法の中には、問題を分析する目的で系統図を用いる場合があります。本書でも問題の構造を系統図で表現する作業を行いますが、問題を分析するために系統図を使うわけではありません。問題に含まれる課題を知識に基づき整理し書き上げ、それをまとめるために系統図を書きます。

 

問題を分析する従来法との相違点は、問題に含まれるすべての課題を書き上げることに集中する必要はなく、アイデアをまとめる気分で気楽に作ればよい、と言う点です。自分たちの所有する知識ベースで考えられる課題だけで問題の構造を書き上げる作業を行います。

 

問題の構造を分析的思考に頼らず、保有している知識の範囲でまとめあげる点は、この問題解決法の特徴です。知識の範囲でまとめてゆきますので、完成前におおよその階層構造もあらかじめ推定できる長所があります。類推などにより思いつく課題だけで系統図を作成しますが、課題に漏れがあるかどうかという心配をする必要はありません。仮にこの段階の作業で課題を見落としても、この後の作業で、「あるべき姿」から逆向きの推論を行い見落とした課題を探索し追加してゆきますので大丈夫です。

 

また、この作業の後半において思考実験で使用するK1チャートを作成する時に、アクションの結果について有効であった場合と無効であった場合についてすべて書きあげる作業を行いますので、ここで仮に課題を挙げ忘れても思考の漏れが発生することはありません。

 

普及が始まっている科学的問題解決法USITでは、問題の構造を見えない世界として扱い分析的思考で探索してゆく手順で行われますが、高い能力が要求されます。しかし、ここで行う系統図作成作業と、逆向きの推論で行う「あるべき姿」から課題を見いだす作業は、分析的思考に必要な高い能力まで要求されません。実務で培われた知識と発想力があれば作業を完了できます。

 

                   <明日へつづく>

カテゴリー : 未分類

pagetop

2012.11/21 電気粘性流体と微粒子

電気粘性流体は絶縁オイルと半導体微粒子からなる流体で、電場の強度で粘度を制御することができます。電場で粘度が制御されるメカニズムは、電場0の場合には流動性を示す懸濁オイルが、電場をかけることで粒子が帯電し電極間で整列した結果、粘度が上昇し、電界強度が上がるにつれて粒子の帯電量が変化するとともに粘度が急激に上昇してゆきます。しかし電界強度が0になると微粒子の帯電が無くなりもとの流体に戻ります。このようなメカニズムです。

 

この流体の機能を発現しているのは、粒子の帯電し分極やすく放電しやすい、すなわち電気を流しやすいが帯電した時の分極も大きいという二律背反の性質です。よく知られているように金属でも帯電しますが導電性が高いために帯電量はごくわずかです。絶縁体は導電性が無いために帯電量は多く容易に分極し誘電体としての性質を示します。ゆえにウィンズロウに発見された当時は絶縁体微粒子に水を吸着させ絶縁オイルに分散し電気粘性流体として使用されていました。

 

このような絶縁体に水を吸着させた粒子は40年ほど研究されましたが耐久性が無く実用化されませんでした。急速に実用化が検討されたのは、表面に有機残渣が残った生焼けの炭素が水を添加しなくとも高い電気粘性効果を示すことが分かったからです。B社で発見されこの材料を中心に研究開発が進められました。

 

このテーマを担当するきっかけとなりましたのは、ゴムの容器に電気粘性流体を入れて用いると、ゴムに添加された材料が絶縁オイルに抽出されて電場0の時でも粘度が上がったままになるため、この問題を解決する応援技術者として駆り出されたからです。プロジェクトのメンバーに加えられたにも関わらずなぜか重要な論文や特許を少しづつ要求した時だけしか見せていただけず、同じ会社のメンバーであるにもかかわらず、奇妙な扱いを受けたことから嫌な予感がして早く問題解決しプロジェクトを離れたいとプロジェクトに加わった時に思いました。ただS社と半導体事業でJVを立ち上げる準備を進めていましたので我慢して真摯に仕事を簡単にいなし、担当して1週間程度で解決方法を提示し、1ケ月で実用化テストに入る状態まで仕上げました。弊社で販売している問題解決技術の成果です。

 

せっかく電気粘性流体のメンバーに加わりましたので、高純度SiCを開発した時に用いた問題解決法で問題を解き、傾斜機能粒子、微粒子分散微粒子、コンデンサー分散微粒子の3種類が電気粘性流体に最適という解答も出してみました。せっかく面白い解答が得られましたので傾斜機能粒子を高純度SiCの試作プラントで製造してみました。絶縁オイルに分散し電気粘性効果を測定しましたら生焼け炭素よりも高い電気粘性効果を示しました。電気粘性流体に構造制御した微粒子を用いた初めての技術でささやかなイノベーションを起すことができました。

 

このようなイノベーションを起すことができましたのは弊社電脳書店で販売している「なぜ当たり前のことしか浮かばないのか」で説明している問題解決法を用いたからですが、40年間誰も気が付かなかったのが不思議です。わかってしまえば当たり前のことだからです。40年間優秀な研究者がたくさんの論文を生産してきたわけですが、微粒子を能動的にデザインして電気粘性流体に用いたのは特許情報からB社が最初でした。

 

 

 

弊社では本記事の内容やコンサルティング業務を含め、電子メールでのご相談を無料で承っております。

こちら(当サイトのお問い合わせ)からご連絡ください。

カテゴリー : 未分類 電気/電子材料 高分子

pagetop